法務系人材が弁護士になるまでに必要な資金と借入の実態
弁護士という職業は、社会的信頼が厚く、高い専門性を必要とする一方で、そこに至るまでの道のりは長く、そして決して経済的に平坦ではありません。大学の法学部を卒業し、ロースクールに進学し、司法試験に合格する――この過程には、時間と労力だけでなく、相応の「お金」も求められます。
本レポートでは、法務系人材が弁護士になるまでに、どれだけの資金を必要とし、実際にどれほど借入を行っているのかを中心に、最新の情報と調査結果をもとに分析を行いました。
弁護士になるまでにかかる主な費用とは?
法曹を目指すには、通常以下の3段階を経る必要があります。
- 大学の法学部への進学
- 法科大学院(ロースクール)への進学
- 司法試験受験および司法修習
この3ステップそれぞれにおいて、まとまった金銭的負担が発生します。以下は主な費用の概算です。
項目 | おおよその費用(年間 or 合計) |
---|---|
国公立大学(学費) | 約54万円/年 × 4年(約216万円) |
私立大学(学費) | 約100〜140万円/年(最大560万円) |
法科大学院(ロースクール) | 約100〜150万円/年 × 2〜3年(約300〜450万円) |
生活費(大学〜ロースクール) | 年間100〜150万円 × 6〜7年(600〜1000万円) |
司法試験・予備校費用 | 約50〜100万円 |
これらを合計すると、最低でも600万円〜1000万円以上の支出が見込まれます。特に私立大学や私立ロースクールへの進学、予備校利用や都市部での生活となると、1500万円を超えることも珍しくありません。
実際に借入する金額の目安は?
多くの法務系人材は、家庭からの支援だけでは費用をまかないきれず、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金や教育ローンを活用しています。実際、以下のようなデータが存在します。
- JASSO奨学金利用者の平均借入額(法科大学院生):約400万〜600万円
- 学部〜ロースクールでの合計借入額:800万円〜1000万円前後
また、急な学費の支払いや生活資金が必要になった際に、消費者金融のカードローンを一時的に利用するケースも一部で見られます。特に、奨学金の振込タイミングと支払いタイミングが合わない場合や、アルバイトの収入が想定より少ないときなど、「数万円〜十数万円だけ急ぎで借りたい」というニーズに対応する手段として、即日融資可能な消費者金融のカードローンが選ばれることがあります。
もちろん、利息が発生するため長期的な利用には向きませんが、「一時的な資金繰り」として合理的に活用されている現状があります。
奨学金の返済負担とキャリア選択への影響
弁護士資格を取得し、法曹の道に進んだ後も、借入金の返済は長期間にわたって続きます。
例えば、借入総額が900万円で、月々5万円ずつ返済する場合、返済完了には15年以上を要します。また、金利がわずかでも発生する場合、実質的な返済額はさらに増加します。
このような負担から、以下のようなキャリア選択への影響が見られるケースもあります:
- 企業法務(インハウスローヤー)を希望するが、収入の高い事務所勤務を優先せざるを得ない
- 公益系やNPO法人での活動を希望していたが、返済の関係で断念
- 開業資金が確保できず、独立を先延ばしにする
返済負担が進路に影響を及ぼすことは、法曹多様性の観点からも大きな課題といえるでしょう。
借入以外の選択肢と支援制度
金銭的負担を軽減するために、以下のような制度や選択肢も存在します。
◉ 給付型奨学金の活用
JASSOや一部の大学・地方自治体では、返済不要の奨学金を提供しています。成績や家計状況によって選抜されますが、活用できれば大きな助けになります。
◉ 法務人材向けローン(教育ローン)
銀行や信用金庫が提供する教育ローンには、法科大学院生を対象にした低金利商品もあり、条件によっては借入時の負担を抑えられます。
◉ 修習資金貸与制度
司法修習中の生活費を支援する制度も存在しており、無収入期間中の負担軽減に寄与しています。
まとめ:法務人材の借入と未来への責任
「弁護士になる」という目標は、非常に大きな価値と意義を持つ一方で、金銭的な壁が立ちはだかる現実もあります。ジュリナビ借入レポートでは、今後もこうした法務系人材の経済的実態を可視化し、多様なバックグラウンドを持つ人々が、より公平に法曹を目指せる社会の実現に向けて情報を発信していきます。
教育費の高騰と奨学金返済の重圧に対し、より柔軟かつ実効性のある支援策が求められる時代において、借入の実態を正しく理解し、賢くキャリア設計をすることが、これからの法務人材にとって重要な鍵となるでしょう。
この記事の参考リンク 一覧(公的機関)
- 【独立行政法人 日本学生支援機構】→奨学金制度の概要や借入・返還シミュレーションなど
- 【文部科学省】→高等教育に関する政策・学費・支援制度など
- 【法務省】→司法試験、司法修習、法曹養成制度に関する公式情報
- 【裁判所(最高裁判所)】→司法修習生に関する案内・資金貸与制度など
- 【金融庁】→学生ローン・貸金業に関する制度やガイドライン
- 【日本政策金融公庫】→教育資金融資(国の教育ローン)など
- 【日本カードローン協会】→カードローン利用に関する基礎知識や、返済に関する注意喚起
- 【消費者庁】→若年層の借入や奨学金利用に関する注意喚起、貸金業に関する消費者向けガイドを提供